JINOは2019年10月に誕生したばかりの会社です。そこで代表の郷司が、JINOは聞こえに課題を持つかたにとってどんな存在でありたいと考えているのか、インタビューをしていただきました。
聞き手は「途上国から世界に通用するブランドを作る」ことをミッションに、「モノづくり」を通じて「途上国」の可能性を世界中のお客様に届けているマザーハウス副社長の山崎大祐さん。
2020年3月9日に創業14年目に入る山崎さんがJINOを応援してくださっている大先輩として、なぜJINOを立ち上げたのか、今後めざしていることを軸に素朴な耳の疑問なども聞いてくださいました。
インタビューは<JINO立ち上げの思い>と<耳のそうだん室で目指すこと>の2編。
本篇はJINO立ち上げの思い編です。
インタビュアー:山崎大祐さん
1980年、東京都生まれ。2003年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券のエコノミストを経て06年に「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とする(株)マザーハウスを共同創業、07年に取締役副社長として経営に参画。19年から代表取締役副社長。ほかにも(株)Que社外取締役、日本ブラインドサッカー協会外部理事なども務める。
株式会社マザーハウスHP:https://www.mother-house.jp/
JINO(ジーノ)という会社名に込めた思い
山崎 お店ついに完成しましたね!どうですか?今のお気持ちは?
郷司 ようやく形ができたなぁって言う安堵感と、
これからたくさんの人に来てもらえたら嬉しいなぁって言う
ワクワクとドキドキです!
山崎 郷司さんと平野さんという共同経営者のお二人で
JINOという会社を始められたわけですが、
JINOという名前の由来ってお伺いしてもいいですか?
郷司 「ジーノ」と読むのですが、会社名は、実は会社を始めるって決めても
最後まで決まらなくて。
『聞こえの課題をゼロにする』というミッションが先に出来ていました。
山崎 大きい目標ですよね!
郷司 はい!大きな目標が先にあって、そこから二人で何をしていけるのか、
私たちが目指しているのは「耳の聞こえの課題をなくす」ということ、
つまり「耳の会社」だね。と。
山崎 耳の会社が、なぜ「JINO」なんですか?
郷司 耳という漢字の日本語読みが「みみ・じ」、耳の会社と書いて「じの株式会社」
二人の苗字も入っているし良いなと思ったのですが色々試行錯誤して、
私がイタリアのブルーノ・ムナーリを尊敬していることから、
なんとなくイタリアっぽくローマ字にしてみよう、
となって「JINO」と紙に書いてみて。
100個くらい候補があって、なかなか決まらなかったのですが、
JINOと書かれた紙を見たら二人とも驚くほどすんなり、
「これだ!」となりました。笑
立場の異なる視点で、同じ違和感をもつ2つの思いが出会ったこと
山崎 なるほど。ところで、郷司さんと平野さんは
なぜ一緒に会社を始めようと考えたのですか?
郷司 平野と私は同じ補聴器メーカーで一緒に仕事をしてきた元同僚でして。
平野は業界歴四半世紀以上の大先輩です。
山崎 そこで出会われてなぜ、自分たちで会社をやることにつながったのですか?
郷司 私は家族に3人聾の叔母がいて、
身近に叔母たちと家族が向き合う問題を見てきたというのと、
ほかの家族が精神や身体に障害をもっているということもあって、
「障害」って社会が作り出している壁だと思っているんです。
その壁に苛立ったり、悲しくなったり、虚しさを覚えたりするうちに
世の中から『障害』という概念をなくしたい。という思いが強くなって、
家族に一番聴覚障害のメンバーが多かったので、補聴器のメーカーに入って
その社会との壁をなくしていけたら、と思いながら働いてきたんですが
メーカーという立場では出来ないことも多く、日に日にもどかしく感じてきて。
山崎 なるほど。僕と初めてお会いした時も、迷ってらっしゃいましたよね。
小さい頃から身近で課題を見てきているからこそ知っている問題点に対して
大きな組織の一部として出来ることの限界と、自分のしたいことの間で。
郷司 それで、平野としょっちゅう、ああでもない、こうでもない、
という議論をするようになっていって。
山崎 平野さんも同じ思いをお持ちだった?
郷司 平野は、私とはまた違った視点で、聞こえに関わる仕事を長年してきた中で、
器械を作る人と器械を使う人の間に、
違和感を覚える場面に沢山出会ってきたことと、
その違和感を無くすには何が出来るかをずっと考えて仕事をしていて
立場は違っていたのですが、感じている違和感が一緒だったんです。
それで、2つの異なる視点が同じ違和感を持っているということは
その違和感を壊す、新しい価値観を世の中に紹介していけるんじゃないか。
困っていると感じている人が1人でも減る手助けになるんじゃないかと考えて
一緒に会社を興すことになったんです。
聞こえないということだけが聞こえの課題じゃない
山崎 「聞こえの課題」とずっとお話していますが、僕らは「見ること」に関しては
『眼鏡作らなきゃ』とか『コンタクトの度を強くしなくちゃ』とか言いますけど
生活の中で『あ、これ聞こえの課題だ』って思うことってない気がします。
聞こえの課題に気づくことって実際にはあるんでしょうか?
郷司 身近な例でいうと、山崎さん、居酒屋さんみたいなガヤガヤしている中で
人と会話するのって難しいって感じることが増えたりしていませんか?
山崎 ありますあります!ただ単に周りがうるさいからだって思っていましたけど。
郷司 小さい頃や若い頃周りがうるさくても、気にせずにしゃべれていたと思います。
年を取るごとに聞こえる音の全体量が減っていくと、
周りの音がうるさければうるさいほど人の話が聞こえ辛くなってしまうんです。
それが顕著になると面倒になって
外に出ていかないという事にもつながっていってしまいます。
(参考記事:隠れ難聴について)
山崎 ということは、聴力ってだんだん弱くなっていって、でもだんだん弱くなるから
ゆでガエルじゃないですけど(笑)自分の変化に気づかないってことですか?
郷司 まさに。年齢を重ねると誰にでも必ずと言っていいほど訪れる
「少しずつ聞こえ辛くなる」、という気づきにくい聞こえの課題です。
他には、最近よく芸能人が突発性難聴で入院、
というニュースが出たりすると思うのですが、この場合はその
「だんだん」の変化が「朝起きたら突然来る」タイプなので気づきやすいです。
山崎 突発性難聴っていうのは年齢を重ねて起きるものではなく、
ストレスが原因ですよね?
郷司 ちゃんとした原因は判明していなくて、
ストレスは理由の1つになっているとは言われています。
ただ、年齢を重ねて起こるタイプと違って、
早めにお薬の投与することで回復される方もいらっしゃいます。
山崎 個人的な興味でお伺いするのですが、
機能が落ちてしまった場合はもとに戻る?戻らない?
郷司 だんだんと変化が起こる、年齢が理由の場合は基本的に難しいです。
今はまだ医学の発展の途上の段階で、人によって変化のスピードは異なりますが
多かれ少なかれ日を追うごとに進行はして、
根本治療は現時点ではないと医師がおっしゃっています。
今、お薬の治験で13社、耳の傷ついた細胞を治そうという開発は
進んでいると聞いています。
現状では、その傷を補うために補聴器を使って
補正していくという選択肢をとることが多いです。
山崎 他には課題ってあるでしょうか?
郷司 沢山あります。例えば私は大きい音が苦手な「聴覚過敏」の傾向があるので、
大きい音のする場所では適度に音の通る耳栓をして凌いだりしています。
皆さんの身近なところだと、イヤホンによる騒音性難聴の問題もあります。
地下鉄に乗る時に音楽などを聞いていて、周りから聞こえているうるさい音が、
聞きたい音よりも大きくなってしまう時、
イヤホンをさらに大きな音にして聞こうとすると思うんです。
そうすると耳にとってはもう、十分にうるさすぎるはずの音が入っているのに
周りがうるさいがために気づかず耳を傷つけてしまう方が増えてきています。
山崎 みんな今当たり前のようにイヤホンつけて歩いていますよね。
あれってあんまり耳には良くないですか?
郷司 良くないんですよ。
1日70dB以内で1時間以内に収めたほうが良いと推奨されています。
(参考記事:騒音性難聴(音響外傷)についてのガイドライン:音楽プレーヤーについての注意啓蒙記事)
山崎 全然知らなかったです。
郷司 あとは、音は聞こえても言葉を分解して理解することが難しい
「聴覚情報処理障害」をお持ちの方がいらっしゃって、
どういうところに相談したらいいかわからないという方が多いです。
我々は聴覚情報処理障害の方にとって、
補助できる可能性がある機械も取り扱いもしているので、
「こういう問題を持っているのですが、どうしたらいい?」と、
まずは気軽にお伺いしたいと思っています。
山崎 そういう意味で言うとJINOという会社は、
補聴器を売るということだけじゃなく、
聞こえの課題全般に対して、社会に色々なことを伝えていきたい
という部分があるっていうことですね。
聞こえの話題が、日常的にされるようにしていきたい
山崎 お話していて思ったのですが、課題って、認識できないと、
何が問題なのかもわからないですよね?
違和感はあるけど、別に。。というレベルで済んでしまうというか。
郷司 そうですよね。
実はさっき山崎さんにちょっと軽い難聴体験をしてもらった
(防音カップというヘッドフォンで軽度難聴の方の聞いている音の大きさを体験。
JINOでいつでも体験できます。)のですが、つけた瞬間、視覚が優位になるって
おっしゃられたじゃないですか。
人の生活って8割が視覚情報に頼っていると言われていて。
もともとは視覚も聴覚もどっちも同じレベルで使うはずの機能だったのですが、
どうしても耳が後回しというかなかなか気づきにくいかもしれないのです。
ちょっとふと振り返ってみてもらって、自分の聞こえ方どうだったかな?って
自分ごとにしてもらう人を増やしたいです。
山崎 確かに、と思うのは、
僕もブラインドサッカー協会の理事をさせてもらっていて、
視覚障害のサッカーで、あまりにも知らないことが結構あると思うんです。
自分の周りに視覚障害の人がいなくて、僕も選手を通して付き合いが始まって。
知るだけで、正直こういうのって勘違いしていたなという事が沢山あります。
知ってもらうのは大事だなと思っています。
耳の事も僕らにとっては、おじいちゃんおばあちゃんが「聞こえない」なんて
感じのことで終わっている部分があるので、JINOの役割は大きいですね。
最後にJINOはこれからどんな目標をもってやっていくのかと言うことを
改めてちょっと教えてほしいなと思うのですが。
郷司 ありがとうございます。
まさに山崎さんがおっしゃったとおりの話で、
私ドリフが大好きだったんですけど、
そのコントの中でおばあちゃん役の人が「え??っ」って繰り返して
それが笑いのネタになるって言うのがありましたよね。
その状態って今では「面白い」で終わらなくなってしまっていまして。
科学的に、認知症につながるコミュニケーション能力の低下に
難聴というのが大きな要因になるとかわかってきているんです。
そういったことを知っていただいて、
まず課題を自分事にしてもらうことが大切だと考えています。
突然ですが山崎さん、今視力っていくつですか?
山崎 視力ですか?僕凄く悪いです。0.1くらいです。
郷司 ありがとうございます。視力って0.1って数字で言えるんですよね。
では聴力いくつですか?って聞いて数値って出てきます?
山崎 うん、多分0.05くらいです。
郷司 笑 面白い!笑
山崎 わかんないです。笑
郷司 これ、ポイントなんです。
耳の力ってみなさん健康診断で測っていらっしゃるのですが、
ざっくり2か所しか測ってもらえないので、
いいか悪いか みたいな結論しかでなくて。
山崎 聞こえるか・聞こえないか だけですもんね。
郷司 はい。あの検査でわかることって本当に少ないので、
皆さんが視力と同じように聴力をご自身で言うことが出来る、
それが当たり前になるっていうのがJINOの目指す1つの世界です。
山崎 なるほど。
郷司 あともう一つ、私が個人的に思ってきた夢でもある、
さっき少しお話した「障害」という概念がない世界です。
「障害の社会モデル」という定義があって、
「障害」は社会が作り出しているという考えです。
聴覚に課題を持つ方が、「聞こえない」ことで何かをあきらめてしまったり、
何かが出来なくなったりするということの、
ない社会を作って行きたいと思っています。
山崎 目が悪いことについて、僕らは眼鏡を変えなきゃ!と思うけど、
障害って思ってないですもんね。
郷司 耳の聞こえも、私平均で40dBなんだよね」っていうのが聴力の値なのですが、
それが日常の会話にでてきて、「そろそろ補聴器みてもらおうかな」っていう
当たり前のやり取りになって欲しいなって思っています。
山崎 素晴らしい!楽しみですね~ありがとうございました。
山崎さんのインタビュー、前編は以上です。
経営の先輩として尊敬する山崎さんと改めてこういう形でお話させていただき
光栄でもあり、なんとなく恥ずかしい感じもしました。
お店に対する思いの後編もお読みいただけたら嬉しいです。
お読みいただきありがとうございました!
JINO GOJI